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以前、「客先指定の用語集はあくまで「参考」というお話」という記事を投稿しました。

しかし、「参考」とはいえ、支給された用語集を確認することは基本中の基本です。そこからその用語集の訳語を採用するかどうかを辞書やWeb検索、あるいは自分の日本語の感覚でもって判断することが大切だ、というのが前回のお話。

でも、今回言いたいことはもっと基本的なこと。文脈によって表現を変えるべき単語が用語集に登録されている場合の話ではありません。

IT翻訳では、大規模・短納期案件の場合、複数の翻訳者がTradosでTM(翻訳メモリ)を共有して翻訳を同時に進めます。1つのファイルを複数人で分割する場合もあれば、1つのプロジェクトに含まれている数十個の関連ファイル(ある新製品に関するプレゼンテーション用PPTファイル、ホワイトペーパーのPDFファイル、操作手順に関するWordファイルなど)を分担する場合もあります(後者の場合の方が多いのかな?)。

いずれにしても、各翻訳者がしっかりと「訳語の統一」を意識して進めないと、同じ意味を持つ単語にばらばらの訳語が使われ、混乱が生じてしまいます。

また、同じ単語でも客先によって表現が違うので、いくら辞書を引くまでもない単語であっても、特に初めて担当する客先の場合は絶対に用語集の確認を怠ってはいけません(たとえば、IT翻訳ではおなじみの「interface」という名詞の訳語、A社は「インターフェイス」、B社は「インターフェース」と、客先によって使い分けなければならないことはざらです)。

「何を基本的なことを...」と思われるかもしれませんが、実際に先週終わった大規模案件で、私を含む複数の翻訳者がTMを共有して複数ファイルの翻訳を同時に進めていたとき、明らかに用語集を確認せず翻訳を進めている翻訳者さんがおられました(たとえば「reboot」という単語。用語集に「再起動」と登録されているにもかかわらず「リブート」とカタカナ書きしてしまうなど)。

その間違いが、その人の担当ファイル内で完結しているなら「リブート」としても大きな問題にはならないでしょう。しかし、その翻訳者さんの進めているファイルと自分が担当しているファイルの文章が同じ、またはマッチ率が高い場合には、その人がTMに登録した既訳が自分の作業ファイルに挿入されてしまうのです。

この場合、自分は用語集に沿って「再起動」で統一しているので、そこに「リブート」が混ざると、それを修正する手間、報告する手間など、不要な手間がかかります(不要な精神的ストレスも...)。※この、同時進行している他の翻訳者さんの既訳が挿入されるしくみには、報酬にかかわる別の大きな問題もあるのですが、それはまたいつか別記事で書きたいと思います。

これは今回に限ったことではありません。これまでも「なぜまず用語集を確認しない?」と感じることはけっこうありました。「用語集の検索はめんどうだ」「この単語は知っているから用語集なんて見る必要ない」と感じている人がいるなら、もう一度よく考えてみてほしい。用語集が支給されている理由を。あなたが楽をした分、他の翻訳者にそれ以上の手間をかけさせていることに気付いてほしいです。

このことは過去案件のTMを支給された場合にも当てはまります。過去に担当した翻訳者さんがしっかりと用語集を確認しているとは限らない。TMに登録されている単語でも、まずは用語集を確認してください。それに、以前は定訳だったものが見直され、変更されている場合もあるので、定期的な用語集の確認は必要だと思います。

「じゃあ、そんな(分担して進めるような)仕事、受けなきゃいいんじゃないの?」っていうご意見があるのも、おっしゃっている意味もわかりますが、「受ける受けないは人それぞれの価値観で決めればいいんじゃないの?」と私は思います。他の翻訳者さんの訳文が見えるというのは、自分の翻訳作業上の支障になることも多いのは確かですが、自分ならしないだろうという言い回しを見かけ、その翻訳者さんの頭の中の流れが垣間見えておもしろいこともけっこうあります(ひたすら「なんでこの人はこんな風に訳したんだろう???」と困惑してしまうことも当然ありますが、それはそれで興味深い)。

最後に補足すると、少なくとも私が契約している翻訳会社の場合、複数人で分担して翻訳作業を進めていても、翻訳者どうしが直接連絡を取るための手立てはありません(お互いの名前すら知りません。TMに登録された訳文には各翻訳者のIDナンバーも記録されるので、同じ人が訳したものかどうかはわかります)。トラブルを防止するためだというのはわかりますが、歯がゆいですね。