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空気を震わせる蝉の声もいつしか鳴りを潜め、今では数えるほどとなった。代わりに、虫たちが夜の帳の向こうから涼やかな音色を響かせている。むせ返るほどの熱気もずいぶんと和らぎ、夏の濃い青から透明度を増した空には少しばかりの哀愁が漂う。

夏休みの初め、蝉時雨について書いた。実はあの話には落ちがある。

せせらぎとでも言うべき川沿いの桜並木を抜け、いつもどおりの散歩道を通って市役所の支所に併設された公園へと行き着いた。昨年、深刻な運動不足を解消しようと始めた散歩だったが、単に歩くだけでは味気ないということで、デジカメを持って出掛けるようになった。それが今では目的が逆転している。当然、その日も首からデジカメをぶら下げ、木を見上げてお目当ての蝉の姿を探していた。

公園では熱暑の中、何組かの親子が元気に遊んでいる。父親と小さな女の子2人が少し離れた所から何やらこちらの様子を伺っている。不思議に思いながらも、私は木の上に黄緑色の小さな美しい被写体を見つけ、カメラを構えていた。3人がこちらに近づく。

「お姉さん」

そう父親に声をかけられた。

「お姉さん」

もう一度呼びかけられ、そちらに顔を向けた。

「はい?」

「......お姉さん、もしかして....」

「?」

「もしかして、......蝉フェチですか?」

予想もしなかったその問いに、私はとっさにこう答えた。

「あ、今木の上にきれいな色の毛虫がいたので...。残念ながら、蝉フェチではないです」

後から考えるとこの回答もどうかしていると思うが、

「そうですか、蝉フェチじゃないんですね......。お姉さん、蝉フェチじゃないんだって」

とやや残念そうに娘たちに言う若い父親の手には、蝉ががっちりと握られていた。その後、娘たちが見守るなか、父親はその蝉を高く投げ上げ、夏の空へと解放した......

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それから3人と別れ、散歩を再開したんですが、あのとき「蝉フェチです」と答えていたらどうなっていたんだろうと思うと、妄想が止まりません。なにより、「蝉フェチ」ということばがおかしすぎて、「蝉フェチって、なんやねん」とひとりエア突っ込みをしていたのは言うまでもありません。

そんなわけで、このお話もずっと書きたかったのですが、日常に忙殺されて書けずにいました。そうしている間に夏も終わってしまいそうな今、せっかくなので書いてみました。

散歩中ずっとニヤニヤが止まらず、傍から見たらさぞ気味が悪かっただろうと思います。あの後、自分の「フェチ」に対する理解がおかしいのかと不安がよぎり、辞書も調べてみました。

ご安心ください、蝉フェチではありません。

お散歩していると、こうしてときどき声を掛けられます。なんだろう、無防備なのかな?でも、こういうのもお散歩の醍醐味ですよね(ちがうか)。

この機会に、撮りためた蝉の写真を少しご紹介させてください。

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